ダム湖に朽ちゆく幻の橋【糠平】


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1974年に国道273号線三国トンネルが開通するまでは、糠平湖や然別湖といった観光地は、現在のようには注目されなかった。

三国峠越えによって大雪国道(国道39号線)との往来が可能になったことで、層雲峡や温根湯に抜けるルートが開発され、観光プランにバリエーションが生まれた。
北海道の最高峰・大雪山周辺のは地形は当然険しく、トムラウシや天人峡といった著名な観光地から山岳部を越える道路は現在でも存在しない。つまり、行って帰ってくることしかできない。自然保護の観点からも、大雪越えのルートがこれ以上開発されそうにないことを考えると、糠平湖や然別湖は交通の便に恵まれていると言っていいと思う。

さて、先程から糠平湖と然別湖を並べて記しているが、この二つの湖は成因がまったく異なっている。一方が自然の湖で、もう一方はダム湖である。
どちらが自然の湖でどちらがダム湖なのか、紛らわしく思う人がいるかもしれない。しかし、これから紹介するエピソードを読んだ人は、これからは決して取り違えることはないと思う。


糠平湖畔、糠平集落付近を拡大した地図を紹介する。

集落より東北東に約3kmの地点に、1956年に完成した糠平ダムがあり、十勝川水系の支流・音更川の水をせき止めて糠平湖を形成している。したがって、ダム湖は糠平湖の方であることがわかる。

糠平集落の東端よりさらに東方、糠平トンネルの付近に鉄道資料館がある。
人口希薄な地域に機械的に建設された国道を快走して糠平にたどり着いた観光客には、かつてこの地に鉄道が通っていたなど信じたくても信じられないに違いない。
しかし、ここ糠平には士幌線という鉄道が通っていた。それは、日本の鉄道史上唯一と言ってよい、数奇な運命をたどった鉄道だったのである。




士幌線が糠平まで開通したのは1937年、終点の十勝三股まで開通したのは1939年のことである。最終的には上川までの路線とする計画だったそうだが、戦時中にどのような需要を見出そうとしていたのか、ぼくは知らない。
士幌線の最初の転機は、この糠平ダムの建設によって訪れた。
ダム湖によって水没する線路の付け替え工事が行われ、戦時中の突貫工事で完成した区間は、わずか20年足らずでその使命を終えた。

次の転機はゆっくりと、しかし確実にやってきた。
糠平以北の人口が激減した結果、付け替え区間の収支が著しく悪化したのである。Wikipediaによると、糠平-十勝三股間に限定した営業係数(100円を稼ぐために必要な費用)は22,500となった。これは「日本一の赤字線」として知られた美幸線の5倍を超える。
Wikipediaによると、最盛期には1,500人を数えた三股地区の人口が14人にまで減少したとのことだが、ダム湖により糠平以北の生活基盤の大半が水没してしまったことが要因の一つではないか、とぼくは考えている。
1978年に国鉄は糠平以北の列車運行を断念し、この区間は代行バスが走ることとなった。こうして、付け替え区間の命運も20年余りで尽きた。

最後の転機は1987年。残っていた帯広-糠平間を含めて、士幌線の全線が廃止された。
糠平以北の鉄道は、三度目の死を数えることとなった。

往時の鉄道の遺構を、この目で確かめることができる。全国に散らばる廃線跡のなかでも、ここ士幌線は「特別な場所」としてファンに愛されている。

この地図では、廃線跡の橋として特に有名なタウシュベツ川橋梁付近を切り出したのだが、地図から当時の路線と橋の位置がわかるだろうか。

北西-南東方向に一直線に延びる林道こそが、かつての士幌線跡である。この林道は522mの標高点付近で折れ曲がっているが、直線の延長上に湖面があることから、この区間はダム建設に伴って水没した区間のものであることがわかる。参考までに、付け替えられた方の線路が対岸を走る国道273号線に並走している破線で示される道路であることも、この地図から読み取れる。

そして、タウシュベツ川橋梁は前者の林道の延長上、まさに水没した区間の湖面上に位置している。

taushubetsu.jpg

寒暖差の激しい気候の中で風雪に曝され続けた橋梁は、使用されなくなってからわずか半世紀しか経っていないにも関わらず、既に朽ちかけている。
三度の死を経験した橋に、四度目の死がひっそりと、しかし確実に訪れようとしている。

この橋を保存しようという動きがあるそうだが、ぼくはこのまま朽ちるに任せた方が良いと思う。
こんなに美しく、しかも悲しく崩れていく建造物を、ぼくは他に知らないからだ。




参考:NPOひがし大雪アーチ橋友の会

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このページは、kimisekaが2008年10月 4日 15:03に書いたブログ記事です。

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