7月15日、火曜日。
朝8時頃にカオサンの安宿をチェックアウト。
今日はバスでカンボジアへ入国するぞ。
今回のルートは、バンコク内のバスターミナル⇒国境の町アランヤプラテート⇒シェムリアップという移動。
まずはバンコクのエカマイ駅へ向かう。ここにはバスターミナルがあり、各地へのバスが発着しているのだ。
カオサンの近くに、「デモクラシー・モニュメント」というランドマークがある。
バンコクのバスは、バスの中に料金を回収する係員がいて、乗り込むとその係員が近寄ってくる。近寄ってきた係員に行き先を告げ、提示された金額を支払うというシステムだ。
お金を払うと、領収書のようなものがもらえる。
カオサンからエカマイ駅まで、17バーツ(約50円)で行ける。めちゃくちゃ安い。
20分ほどバスに揺られ、エカマイ駅に到着。バスターミナルはエカマイ駅から歩いてすぐの場所にある。
アランヤプラテート行きのバスチケットは220バーツ。(約660円)
15人ほどしか乗れないミニバスだったが、乗り心地は悪くなかった。
10時半に出発したバスは、4時間ほどでアランヤプラテートに到着。
ビザ代行センター的な建物の前で降ろされ、ビザ取得の書類を記入させられる。
そういえば、カンボジア入国にはビザが必要だった。
パスポートサイズの写真を1枚持ってきていたので、それを渡してビザ申請書類は完成。
ビザ取得手数料として、1,000バーツ(約3,000円)ぐらい取られた。
タイーカンボジアの国境では詐欺が横行していて、払う必要のない金を払わされないよう注意しなくてはいけない。
そういう事前情報は知っていたものの、僕はここで、見事に無駄金を払うことになる。
パスポートを渡して10分ほど待つと、カンボジア入国ビザが貼られたパスポートが戻ってきた。
今思えば、ここで切り上げるべきだったのだ。
ビザを取得後、立ち去ろうとすると、受付の男が「シェムリアップまでの移動と宿はどうするのか」と聞いてきた。
続けて男は言う。
「シェムリアップまでバスで行くつもりかい?やめておいたほうがいい。シェムリアップのバス停は、ゲストハウスの多いエリアから離れている。あなたはバスを降りたあと、またトゥクトゥクやバイクタクシーにお金を払わなくてはいけない。
ここで宿を予約したほうがいいよ。乗り合いタクシーも600バーツ(約1,800円)で利用できる。このタクシーは宿まで送り届けてくれるから安心だよ」
こんな提案、無視するべきだった。
しかし、僕は見事に口車に乗せられた。
見知らぬ町に夜到着し、宿も決まっておらず、遠くのバス停に降ろされる。
そんなマイナス要素を主張する男のセールストークに、心を動かされてしまった。恐怖心をあおるというのは、セールストークの王道である。不安が思考を停止させ、正常な判断ができなくなる。
このときの僕も思考停止してしまっていた。
僕は男の言うとおりに、400バーツの宿代と600バーツの乗り合いタクシー料金を払った。(合計1,000バーツ。約3,000円)
宿代とタクシー代を払うと、別の男が出てきて「タクシー乗り場まであなたを案内します。僕についてきてください」と言う。
これも断るべきだったが、僕はついていってしまった。
このように、ツアーガイドと称して簡単な道案内をして、あとでチップを要求してくるケースは多い。しかし僕はこのとき、そこまで頭が回らなかった。まさに「初心者ホイホイ」に引っかかったといえる。
ガイドの名前はケンといった。
ケンはあれこれと指示してくる。
「ここで出国審査を受けてください。僕は出国審査を抜けた側で待っています」
出国審査を抜けると、ケンはカンボジア側で待っていた。
少し歩くと、今度は首から社員証のようなものをさげた別の男が、僕らの前に立ちふさがった。
この社員証モドキは、相手に安心感を与えるための偽造品だったのだろう。しかしそのときの僕は、そんな簡単なことにも気づけず、「社員証をつけているから安心できるな」などと思ってしまっていた。
無防備すぎる。疑うことを知らない。まるで、限定ジャンケンで船井に騙されたカイジではないか。
社員証男が言う。
「あなたはここで、パスポートに入国スタンプを押さなくてはいけない。それには300バーツ(約900円)かかる。さあ、パスポートを出して」
と、男は当然のような口調で言う。僕がパスポートを男に渡すと、男はケンに僕のパスポートを渡し、僕のパスポートを持ったケンは、どこかに行ってしまった。
社員証男「今、ケンがスタンプをもらってくるから、ここに座って10分ほど待ってください」
と、うながされるままに僕はイスに座って待った。
今ブログを書いていても、あのときの自分に腹が立ってくる。冷静に考えれば、他人にパスポートを渡して入国スタンプを押してきてもらうなど、普通はありえない。
なぜなら入国審査は、審査官がパスポートと本人の顔を見比べるという作業が必ず必要になるからだ。こんなこと、考えればすぐにわかることである。
しかし、僕はホイホイとパスポートを渡し、社員証男に300バーツを払い、イスに座って待っていた。
意味不明の300バーツ。
10分ほど待つと、ケンがパスポートを持って戻ってきた。
本当に入国スタンプが押されている。スタンプはどうやら本物っぽい。
僕らが立ち去ろうとすると、社員証男は「チップ100バーツをよこせ」と言ってくる。このときの僕はまさに詐欺の入れ食い状態。男に100バーツを払った。
僕は、今ブログを書きながら自分につっこんでいる。ちょっと待て、さっき払った300バーツはなんだったんだ。
意味不明の100バーツ放出。
社員証男に散々むしり取られたあと、ケンと僕はカンボジアの国境ゲートを通過。
ゲートを通過してすぐ、入国審査があった。見慣れた窓口。パスポートに入国スタンプを押してもらっている旅行者たち。
僕はすでに入国スタンプを押してもらっているので、そのパスポートを審査官に見せると、「行ってよし」との表情。
ここで、電流走る。
「あれ?俺もここで入国スタンプ押せたんじゃね?さっきの300バーツはなんだったんだ」
ここで僕は初めて、僕の身に何が起きているのか理解し始めた。僕は、詐欺のベルトコンベアーにのせられてしまったのだ。
不審に思った僕は、ケンに言った。
僕「ケン、さっき僕が払った300バーツはなんだったんだ?僕はここで、自分で入国スタンプを押してもらうこともできたよね?」
ケン「外国人が自分で入国審査を受けると、ブラックリストに載る可能性があるんだ。だから僕がやってあげた」
意味不明。なぜ何も悪いことをしていない僕が、入国審査を受けただけでブラックリストに載らなくてはいけないのか。というか、ブラックリストってなんだよ。
この時点でようやく、僕は「こいつら、信用できないかも」と思い始めた。気づくのが遅すぎた。
「金返せ!」とキレることは、僕はしなかった。怒りは目を曇らせる。僕は、いつだって冷静でありたいのだ。(とか言いながら騙されてる)
あの300バーツ(+100バーツのチップ)は仕方ない。学ぶための出費と思うことにした。
入国審査を通過し、僕らはバス停に到着した。
ここから無料のシャトルバスが出ていて、10分ほど離れたバスターミナルまで乗せてくれるらしい。
「本当に無料かよ?」と不審に思って乗り込んでみたが、これは本当に無料だった。
10分ほど走ると、バスターミナルに到着した。
ここからシェムリアップまで行けるバスが出ているらしい。
僕はここで、タイ・バーツをカンボジア・リエルに両替えした。
約5,000バーツ(約15,000円)が約50万リエル(約12,500円)になった。今、ネットで換算レートを見ながらブログを書いているが、この両替所はめちゃくちゃレートが悪かったことがわかる。
※単位が大きいのでわかりにくいが、1万リエル=250円程度。
ケンのガイドはここまで。彼は当然のように、「チップを20000リアル(約500円)」と要求してきた。不審なこともあったが、ケンとの会話は楽しかったので、すんなり払ってやった。
ケンが言うには、僕が600バーツで予約した乗り合いタクシーも、このバスターミナルから出るらしい。
ケンとバトンタッチするかのように、また別の男が登場。
その男が困った表情で言う。
「ごめんなさい。乗り合いタクシーは4人の乗客が見つからないと、出発できません。今、乗客はあなただけです。あと3人乗客を探してくるので、ちょっと待っていてください」
20分ほど待っていたら、男が戻ってきた。
男「ごめんなさい。ほかの乗客が見つからないので、あなたの乗り合いタクシーは出発がいつになるかわかりません。最悪、今日はもう出発しないかもしれません。3万リエル(約750円)のバスなら、今すぐ出発できます」
僕「それはそっちの都合でしょ?早くあと3人見つけてきてよ」
男「このバスターミナルにいる乗客全員に声をかけたけど、だめでした。残念です」
僕「じゃあ金を返してよ。僕はバスで行くから」
男「チケットをよく見てください。お金は返却できません」
Ticket cannot refund.(チケットは払い戻しできません)
そういう手口か。
もともとほかの乗客が見つかるかどうかなんて、彼らにとっては知ったことではないのだ。チケットさえ売ってしまえば、あとは国境の向こうのこと。クレームを言ってくる人間はもうタイ国内にはいないのだ。
もちろん、ちゃんと書面を確認しなかった僕も悪い。
しかし彼らは、「乗り合いタクシーは安くて便利だよ。タクシーはすぐに出発するよ」と説明し、「ほかの乗客が見つからない場合もある。返金はできない」とは説明してくれなかった。
これが悪徳業者のやり方。メリットだけ伝え、デメリットは隠すのだ。聞かれるまで答えない。
600バーツ払ったタクシーはあきらめ、僕はバスに乗ることにした。
だが、ここで新たな疑問が浮かんだ。
僕「タクシーが出ないということはわかった。じゃあ、予約した宿まで送り届けてくれるという話はどうなったの?」
男「それは大丈夫。バス停にトゥクトゥクを待機させておくから。もちろん、料金は無料です」
もはや何も信じられなかったが、僕はこれにすがるしかなかった。
なんだかんだで、僕を乗せたシェムリアップ行きのバスは出発した。
ここでもさらに無駄な出費をすることになる。
バスで3時間もかからないはずなのに、30分ほど走ったところでなぜかトイレ休憩。
僕はたいして尿意は感じなかったが、とりあえず小便をした。
すると、トイレを出たところにある売店の女性が、僕に近寄ってきた。
女性「トイレを利用したなら何か買わなくてはいけない。だから何か買っていけ」
東南アジアでは、トイレの利用に数十円とられることは珍しくない。そのことは僕も理解していたので、僕は「OK、じゃあ水をください」と言った。
500mlペットボトルの水が14,000リエル(約350円)だった。そのときは14,000リエルという金額の価値がまだ理解できていなかったので、「少し高いかな?」と思いながらも買ってしまった。
※あとから知ったが、これはめちゃくちゃ高い。シェムリアップでは、500mlの水は50円以下で買える。
おそらく、このトイレ休憩所とバス運転手はグルになっているのだろう。50円の水が350円。まさかの7倍プッシュ。
というか、トイレに入る前に声をかけるのがフェアだろう。トイレを使ったあとで金を要求するなんて、卑怯だ。
バスはシェムリアップに向かって再出発。
500ml350円の最高級な水を飲みながら、窓の外に流れる風景を見ていた。
草原。
ところどころにポツンと生えている樹木。
放牧されている牛。
舗装されていない、赤茶色の道。
のどかな風景が流れていく。
再出発から2時間ほど走ったところで、シェムリアップのバス停に到着。
宿まで送ってくれるはずのトゥクトゥクを探す。
たしかにトゥクトゥクは何台かあるが、どれも運転手がいない。
「また騙されたか」と不安になっていると、ひとりの男性が日本語で声をかけてきた。
キム「僕はキムといいます。あなた、ホテルまで行く日本人ですか?」
僕「そうです。あなたが運転手ですか?」
キム「はい。僕があなたをホテルに連れていきます。トゥクトゥクじゃなくて、バイクだけどね」
僕「日本語うまいね」
キム「語学学校で勉強しているんです」
キムは本当に日本語がうまかった。
流暢な日本語を話す現地人。それはある種の麻薬的な安心感がある。しかしそれは、どこか危険な安心感なのだ。
そのあと、僕の予感は的中することになる。
バイクのうしろに乗せられ、10分ほど走ると宿に着いた。
国境で払った400バーツ(約1,200円)で、本当に予約できているか不安だったが、ちゃんと予約できていた。よかった。
部屋はかなり広くて、12畳ぐらいはある。バスタブもあってゴージャスだ。扇風機もあるので洗濯物がすぐに乾かせる。
この旅で一番豪華な宿であることは間違いない。
宿に着いたのは19時頃。腹が減っていたので、さっそく街でごはんでも食べよう。そう思って部屋を出ると、ロビーでキムが待っていた。
キム「あなた、明日シェムリアップの観光するね?僕がガイドするよ。僕は仕事が欲しいんだ」
僕「気持ちはありがたいけど、僕が行きたいのはアンコールワットだけだし、自分で回れるから大丈夫だよ」
キム「いや、僕は仕事が欲しい。だから、あなたのガイドをする」
(目がマジである。こいつ、ヤバイ)
僕「キム、僕はひとりで街を見るのが好きなんだ。ガイドにはチップも払わなくてはいけないし、変な店に連れていかれることもある。もちろん、君を疑っているわけではないが、僕は国境でいろいろと騙されて、疲れているんだ。ひとりにしてくれないか」
キム「国境であなたを騙した人と、僕は無関係だよ。僕はあなたのガイドをしたい。ここより安くていい宿も知っているし、紹介してあげるよ」
僕「安宿はネットで調べられるから、間に合ってるよ。僕は今、腹が減っているんだ。もう行かせてくれないかな」
キム「わかった。あなたは僕を雇う気がない。悪い日本人だね?」
僕「…」
キム「悪い日本人からはお金を取るよ。バス停からホテルまで乗せてあげた分のお金を払え」
僕「それは無料という約束になっていた。僕は払わないよ」
※ここでキムの態度が豹変した。
キム「オマエ、アタマ、オカシイ。クルクルパー」
僕「そうだね、僕はおかしいのかもね。バイバイ」
キム「キヲツケロ。アタマオカシイ日本人」
そう言って僕はロビーを立ち去ったが、キムは僕をずっとにらんでいた。僕はその目に、怪しげな雰囲気を感じた。
ホテルから10メートルほど離れた場所で、ふと振り返るとキムがバイクで僕に向かってきていた。
とっさによけたが、よけなかったら腕を骨折していたかもしれなかった。そんな殺気を感じた突進だった。
キムは数メートルほど進んだところで停車し、「キヲツケロ!クルクルパー!」と叫んで、そのまま走り去ってしまった。
怒りというよりも、僕は恐怖を感じていた。ここ数年、このような身の危険を感じたことはなかった。これが旅なのか。
辺りはもう暗くなっていた。
心身ともに疲れきっていた僕には、料理は砂の味だった。
待ち伏せが怖かったが、宿に戻るとキムの姿はなかった。
部屋に戻ってシャワーを浴び、洗濯物を干しながら僕は考えた。
この宿はキムに知られているので危険だ。一刻も早く、ここを出たい。
翌日チェックアウトすることを決心し、僕は眠った。
こういう時、どうしたらいいんだろうね。
怪我しなくて良かったよ。
気をつけて。
>トシ
ほんと、怪我しなくてよかった。
一切関わりのない相手なら、キムもこんなに粘らなかったと思う。ツアーガイドのやり口って、まず無料でサービスを提供して、あとから金をとるっていう、行動心理学の王道「まず価値を提供して、断りにくくさせる」っていう法則にのっとってるのね。
だから、まず入口でシャットアウトするのが大事で、少しでもサービスをもらっちゃうと、彼らは強気で金を取ろうとしてくる。今後は、入口シャットアウトを基本方針に旅していくわ。
“日本人=バカ正直で親切”って思われてそう。
旅すると良くも悪くも強くなるね。
Good luck!
なりさん・・・。
やられすぎですよー!!
ビザ代やらなんやら&交通費すべて込みで45ドルあれば
十分カオサンからシェムリまでいけますよー!!
しかもシェムリで1200円の宿ってぼったくられすぎですよー!!
>たかしさん
恥ずかしながら、初心者ホイホイに見事に引っかかりました(苦笑)
まあ、小さな金額で今後のための勉強をさせてもらったと前向きに考えます!
たしかにシェムリで1,200円の宿って高いですね。Booking.comによれば500円が相場みたいです(笑)国境付近はガードが甘くなる傾向にあるようなので、今後気をつけます!
アランやプラテート~ポイペト間で見事にぼったくられたんですね。自分はこの国境は非常に順調に行ったんで良い思い出ですが、ハートレック~コッコン間で見事にぼったくられました。カンボジアは基本的に好きな国で良い思いでばかりですが、この国境で見事にぼったくられたのは悔しかったですね。
>Kさん
コメントありがとうございます。
そうですね。。。この頃はかなり初心者だったので、見事に引っかかりました。(その後もインドなどで詐欺られたりしたのですが汗)
最近はそういった詐欺被害がないのですが、今後も気を引き締めていこうと思います。
僕は今カンボジアにいて同じキムに初日あってホテルまで連れてってもらいました!
この記事を読んで怖くなったんで今日チェックアウトして違うホテルに泊まることにしました!
あはは、同じ手口でやられたよ。
僕の場合は、荷物が少なかったからタクシーがヘルメット無しのバイタクになったけどねw