君の知らない世界一周物語

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宿で盗難事件発生。奪われたものは

7月8日、火曜日の夕方。

アズミンの運転するタクシーに乗って、無事ゲストハウスに到着した。

このゲストハウス、一晩450円という驚きの安さ。

僕はここで、この旅一番の戦慄を味わうことになる。

 

ゲストハウスはジョンカーウォークまで徒歩5分程度の川沿いに位置している。

窓からはマラッカ川を眺めることができ、広々としたドミトリーは解放感もあって良い。
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1Fに受付があり、2Fにはロビーとベッドがある。

10台ほどベッドがあったが、埋まっているのは僕のベッドを入れても3台だけ。

一人は荷物を置いて外出中のようだったが、もう一人はロビーでスマホをいじっていた。アジア系の女性だった。

 

 

夜。僕がロビーでブログを書いていると、そのアジア系女性が話しかけてきた。僕と同年齢ぐらいだろうか。

女性「ハーイ。あなた日本人?」

僕「そうです。あなたは?」

女性「私はベトナム人。日本語知ってるよ。”チョットマッテクダサイ”、”アリガトウ”、”ドウイタシマシテ”」

僕「日本語うまいね」

僕がそう言うと彼女はキャハハと笑い、毛むくじゃらなフルーツをくれた。グロテスクな見た目とは裏腹に、食感はライチのようで、ほんのり甘く、南国の味がした。

 

時間にしてほんの1分か2分の会話だったが、僕はうれしかった。この旅で初めて、ドミトリーの宿泊客と会話らしい会話をしたのだ。

 

 

ブログを書き終え、シャワーを浴び、僕が眠ったのは23時頃だったと思う。

ベトナム人の彼女も同じ頃に就寝していたが、もう一人の宿泊客は、結局帰ってこなかった。夜遊びでもしていたのだろう。

 

 

 

翌朝。7月9日、水曜日。

いつものように6時頃目覚めた僕は、ロビーでパソコンをいじっていた。Facebookに写真をアップロードしたり、マラッカの観光名所を調べたりしていたのだ。

 

 

7時半頃。

ネットサーフィンしていた僕の後ろで、「Hey」という声がした。同室のベトナム人女性の声だ。僕は朝のあいさつをしようと思い、笑顔で振り返った。

彼女は鬼の形相で立っていた。

 

怒鳴る彼女。

「あなた、私のお金を盗んだわよね?!」
(You stole my money, didn’t you ?!と言っていたと思う)

 

僕はドキッとした。もちろん、僕はお金を盗ってなどいない。しかし、彼女の怒りの表情と、”stole my money”という言葉のまがまがしい響きが、僕を戦慄させたのだ。

 

僕「I don’t know.」(知らない)

突然の出来事に、それしか言葉が出なかった。

僕は英語がペラペラ話せるわけではないし、こういった状況で、相手を気づかいながらうまく自己弁護する表現も知らない。

 

続いて彼女がまくしたてる。

「今朝起きたら、お金が全部なくなっていた。昨日の夜から、この部屋にはあなたと私しかいない。だからあなたが盗ったとしか考えられない」

 

僕は「やれやれ」と思った。

もう一人、いたじゃないか。顔の見えない第三の宿泊客が。彼女もそのことは知っているはずなのだ。

 

おそらく、彼女は気が動転していたのだろう。

朝起きたら、お金がなくなっていた。そのとき僕の姿が見えたから、攻撃対象としてロックオンしてしまったのではないか。

 

 

 

言いたいだけ言って、彼女は自分のベッドに戻っていった。

僕はとまどいの表情で”I don’t know.”を繰り返すことしかできなかった。

 

 

 

その直後、彼女のベッドからシクシクと泣き声が聞こえてきた。

 

 

僕もロビーから自分のベッドに戻り、頭を冷やすことにした。

冷静にならなくてはいけない。

僕はどう行動するべきか。

 

 

部屋には、シクシクとすすり泣く声が響いている。

 

 

僕の中で、悪魔がささやく。

「厄介なことには首を突っ込まないほうがいい。関わるな。ほっとけ」

たしかに、首を突っ込めば逆に犯人扱いされるかもしれない。彼女を放置してその場から逃げてしまったほうがいいのかもしれない。

 

ふと、昨日果物をくれた彼女の笑顔が、僕の脳裏に浮かんだ。

南国の味と、キャハハという笑い声。

 

 

3分ほど考えたあと、僕は彼女のベッドに向かった。彼女はシクシクと泣き続けていた。

 

向かいのベッドに腰かけ、彼女に目線の高さを合わせる。話し相手と目線の高さを合わせるのは、円滑なコミュニケーションのコツである。

 

僕「大丈夫?いくら盗られたの?」

彼女「40シンガポールドル(約3,200円)」

 

3,200円。僕ら日本人にとってはたいした金額ではないが、彼女にとっての価値は違うのだろう。いや、そもそも金額の問題ではないのかもしれない。

 

僕「クレジットカードやパスポートも盗られたの?」

彼女「ううん、盗られたのはお金だけ」

僕「どうやって保管してたの?」

彼女「ショルダーバッグにお金を入れて、バッグは枕元に置いて寝てたの。でも、朝起きたらバッグが足元に移動してて、お金がなくなってた」

僕「従業員に言うべきだよ」

彼女「そうするわ。さっきはあなたを疑ってごめんなさい。昨夜はもう一人、宿泊者がいたわね。朝起きたら、いなくなっていたけど。もしかしたら彼が盗ったのかもしれない」

僕「僕が起きたときにはもういなくなっていたよ。もしかしたらそうかもしれないね」

彼女「きっとそうだわ」

僕「何もしてあげられなくてごめんね」

彼女「いいの。ありがとう」

 

会話が終わっても、彼女の笑顔は奪われたままだった。

 

 

冷静に考えれば、お金を盗った人間が犯行現場に残り、のんきにネットサーフィンしているのは不自然だ。

そのことに彼女も気づいてくれたらしい。

 

 

 

彼女との会話を終え、自分のベッドに戻ったあと、僕はすぐに外出した。独りになりたかった。

自転車を10リンギット(約300円)で1日レンタルし、行くあてもなく走り出した。

 

マラッカ川に沿って走り、海に出た。

2時間ほど、そのまま海沿いの道を走り続けた。

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何も考えたくなかった。盗難事件のことなんて忘れてしまいたい。僕は、精神的にひどく疲れてしまっていた。

そんなときは体を動かすに限る。

 

 

走って、走って、マクドナルドで昼飯を食べた。テレビではW杯のブラジルvsドイツの録画が放送されていた。

 

そのあとも走り続け、疲れたらカフェで休んだ。

 

 

休んで走ってを繰り返し、気づいたら夕方になっていた。

 

努力は無駄だった。

 

 

 

彼女の笑顔と涙が、いつまでも僕の頭から離れなかった。

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