君の知らない世界一周物語

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さよならダハブ。ミスターミュージックのオレンジ

「ああ、終わったんだな」

シャルムエルシェイク空港のベンチに腰掛けると同時に、ぼくは実感した。

今日でぼくはエジプトを去るのだ。

 

長い人生のうちのほんの数日間。

エジプトの楽園ダハブで過ごした時間を、数年後のぼくはどのように振り返るのだろうか。

 

 

美しい海を眺めながらカフェで語り合ったことも、初めてのダイビングで心が震えたことも、バーベキューの味も、もしかしたら忘れてしまうかもしれない。

それは仕方のないことなのだ。

 

 

 

楽しかったことも悲しかったことも、多かれ少なかれ、人間は忘れていくようにできている。

 

だからこそぼくらは、次の一歩を踏み出せるのだ。

「忘却」とは、過去に縛られずに生きるための本能的機能なのだろう。ぼくはそう考えている。

 

 

 

 

それでも。

それでも、ぼくは忘れたくない。

 

何度もかよった韓国料理屋のチキンの味。肩にくい込むダイビング器材の重み。仲間内でしか通用しない身内モノマネ。どこからか聞こえてくる優しい歌声。

白熱したトランプゲーム。愛らしい猫たち。エジプト人スタッフとのサッカー。うまい日本食。

ダハブの夜風に溶ける、みんなの笑い声。

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そしてダハブといえば、思い出されるのはSMAPの曲「オレンジ」だ。

 

 

ぼくが日本人宿セブンヘブンに滞在していた期間中、同じくセブンヘブンにいた日本人男性。

彼は宿のスタッフから「ミスターミュージック」とよばれていた。バーベキューや飲み会の際には、いつも彼が音楽をかけていたからだ。

Bluetoothで駆動するワイヤレススピーカーを使って、状況に応じた音楽をかける。彼の選曲はよかった。

 

 

 

 

セブンヘブンでは、毎日のように仲間との別れがある。

タクシーに乗って最寄りのバス停や空港に向かう仲間を、みんなで見送るのが日課だ。

 

ミスターミュージックは、別れの際に必ずSMAPのオレンジをかける。

別れの曲である。

 

 

 

2週間の滞在中、ぼくはこのオレンジを何度も耳にした。

 

SMAPがぼくらの心を代弁する。笑顔で去っていく仲間もいれば、泣きじゃくりながら出ていく仲間もいた。

 

 

 

 

 

そして今日、ぼくもこの曲を聞き、ダハブを去ったのだ。

 

 

 

ダハブの最寄り空港、シャルムエルシェイク空港。運転手としてぼくを送り届けてくれた宿のスタッフとハグを交わす。

「グッドラック」

彼はそう言って車を発進させた。

 

残されたぼくはひとり、空港に入る。
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深夜2時の空港はひっそりとしていて、人もほとんどいない。

冷たく硬いイスに腰掛け、ぼくはダハブでの日々を思い返す。

 

 

「ああ、終わったんだな」

 

さまざまな情景が蘇ってくる。

ダハブ到着の朝の高揚感。日本人宿セブンヘブンのレセプション。酸素タンクのカランカランという音。スーパーへの買い出し。ぼくを受け入れてくれた仲間たち。
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ダハブで触れ合った仲間たちの笑顔が、浮かんでは消えていく。

頭の中に、ミスターミュージックの流すオレンジが響く。

 

 

 

 

不意に、鼻の奥にツンとくるものを感じて、ぼくは上を向いた。

ぼくは、たくさんの優しさに包まれていたのだ。

 

 

 

 

みんな、ありがとう。最高の仲間たちだ。

いつの日か必ずまた会おう。

 

 

 

 

ぼくは息をひとつ大きく吐き出してから立ち上がり、荷物チェックへ向かった。

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